大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)451号 判決 1982年4月27日
控訴人
田淵こと
鈴木喜久江
右訴訟代理人
入江菊之助
同
川越庸吉
同
浅岡美恵
同
戸倉晴美
被控訴人
合名会社臼杵積善社
右代表者社員
臼杵好秀
同
臼杵禎子
被控訴人
臼杵好秀
被控訴人
臼杵禎子
右被控訴人ら訴訟代理人
千葉宗八
同
千葉宗武
同
青山緑
同
吉村修
同
占部彰宏
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審新請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 申立
一 控訴人
原判決を取消す。
控訴人と被控訴人合名会社臼杵積善社(以下「被控訴人会社」という。)との間において、控訴人が被控訴人会社の社員であることを確認する。
控訴人と被控訴人らとの間において、被控訴人臼杵好秀、同臼杵禎子(以下「被控訴人好秀、同禎子」という。)が被控訴人会社の社員でないことを確認する。
被控訴人会社は、控訴人に対し、原判決別紙登記目録記載の入社登記の抹消登記(以下「本件抹消登記」という。)の回復登記手続をせよ。
被控訴人らは、控訴人に対し、別紙印鑑目録記載の印鑑(以下「本件印鑑」という。)を引渡せ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨の判決。
第二 主張、証拠
当事者双方の主張、証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決三枚目裏一一行目から同一四行目までを「五 よつて、控訴人は、控訴人と被控訴人会社との間において、控訴人が被控訴人会社の社員であることの確認を求め、控訴人と被控訴人らとの間において、被控訴人好秀、同禎子が被控訴人会社の社員でないことの確認を求め、被控訴人会社に対し、本件抹消登記の回復登記手続を求める。」と改める。
2 <証拠関係略>
二 控訴人の主張
1 当審新請求の請求原因
被控訴人らは、被控訴人会社の財産を管理する権限、したがつて、本件印鑑の保持権限がないのに、本件印鑑を保持している。被控訴人会社の社員である控訴人は、被控訴人らに対し本件印鑑の引渡を求める。
2 仮定的主張
(一) 控訴人の入社当時、善三郎だけでなく、被控訴人好秀、同禎子も被控訴人会社の社員であつたとしても、善三郎は右被控訴人らから控訴人の入社につき同意を得ていたし、右被控訴人らは善三郎に対し、被控訴人会社に関するすべての事項につき包括的代理権を与え、善三郎は、右被控訴人らの代理人として控訴人の入社に同意した。
(二) 被控訴人好秀、同禎子は、昭和四五年一一月二四日、控訴人が被控訴人会社の社員であることを事後的に承諾した。
3 合名会社の存立時期が定められていたとしても、存立時期の満了後社員全員が会社を継続する行為をしていたならば、右存立時期の定めは黙示的に否定されたものというべきである。被控訴人会社は、存立時期を会社設立の日より二〇年と定めていたが、存立時期の満了した昭和三三年二月一〇日以後も次のとおり会社を継続する行為をしていたから、総社員で右存立時期の定めを無効にする黙示の合意をした。(イ)被控訴人会社は、昭和三六年一〇月ころ、兵庫県下において山林の伐採をしており、昭和三九年度まで篠山税務署に納税の確定申告をしている。(ロ)被控訴人会社代表社員善三郎は、昭和三四年春ころから美術館を作ることを計画し、その準備行為をするかたわら、コレクションの公開等の事業をしていた。
被控訴人会社の登記の経緯に照らすと、被控訴人らが、右存立時期の定めを援用することは権利の濫用であり、許されない。
三 被控訴人らの主張
1 控訴人の主張1の事実を争う。
2 控訴人の仮定的主張(一)及び(二)は故意又は重大な過失により時機に後れて提出されたものであり、訴訟の完結を遅延させるものであるから、民訴法一三九条により却下すべきである。
3 控訴人の仮定的主張(一)及び(二)の事実は否認する。(一)合名会社の社員権は一身専属権であるから、その権利の行使を他人に包括的に委任し、あるいは包括的に代理することは許されない。(二)昭和四五年一一月二四日は善三郎の葬儀が行われた翌日であり、当時被控訴人好秀、同禎子は、控訴人が被控訴人会社の社員として登記されていることを知らなかつたから、これを承諾、追認することはありえない。
4 控訴人の主張3は争う。合名会社の社員の入社は、定款の絶対的記載事項の変更となるから、総社員の同意を要する。控訴人の入社につき社員の被控訴人好秀、同禎子の同意がないから、控訴人の右主張事実の有無にかかわらず、控訴人の入社は無効である。
5 控訴人は、被控訴人好秀、同禎子が被控訴人会社の社員であることを自白した。代表社員でないことの確認等請求事件(原裁判所昭和四六年(ワ)第五号事件・以下「前件」という。)において、控訴人は、被控訴人好秀、同禎子が控訴人の入社当時社員であつた旨主張し、被控訴人会社及び同好秀は右主張事実を認めたから、右当事者間において右事実につき自白が成立した。控訴人はその後右自白を撤回した。被控訴人らは右自白の撤回に異議がある。
四 証拠<省略>
理由
一被控訴人会社が昭和一三年二月一〇日設立されたことは当事者間に争いがない。
二自白撤回の争点について
記録によれば、前件訴訟(前記控訴人の申立第二、第四項等の請求訴訟)において、控訴人は、「(イ)昭和四一年八月一五日当時、被控訴人会社の社員は臼杵善三郎、同好秀、同禎子の三名であつた。(ロ)控訴人は右一五日、被控訴人会社の総社員の同意を得て被控訴人会社に入社した。」と陳述し、被控訴人会社は、「右(イ)の事実は認めるが、(ロ)の事実は否認する。」と陳述し、その後、控訴人は、「右一五日当時、被控訴人会社の社員は、善三郎のみであり、好秀、禎子は社員でなかつた。」と陳述したことを認めうる。
本件のように、XがY合名会社を被告として、XがY会社の社員であることの確認と、XのY会社入社登記の抹消登記の回復登記手続を請求する訴訟において、B、CがY会社の社員となつた具体的な入社要件事実を陳述せずに、Xが、「(イ)昭和四一年八月一五日当時、Y会社の社員はA、B、Cの三名であつた。(ロ)Xは右一五日Y会社の総社員の同意を得てY会社に入社した。」と陳述し、Yが、「右(イ)の事実は認めるが、(ロ)の事実は否認する。」と陳述し、その後、Xが、「右一五日当時、Y会社の社員はAのみであり、B、Cは社員でなかつた。」と陳述した場合、Xの「右一五日当時、B、CはY会社の社員であつた。」旨の陳述は、事実自白を含まないいわゆる権利自白(先行権利自白)であると解すべきであるから、事実自白の撤回の場合の要件の充足を必要としないで、右権利自白を撤回しうると解するのが相当である。(権利自白の悪用者に対しては、民訴法九〇条、一三九条等により対処すべきである。)
三控訴人が社員であることの確認請求について
1 合名会社の社員の入社は、定款の絶対的記載事項(商法六三条三号)の変更となるから、総社員の同意を要する(同法七二条)。
そこで控訴人が入社したと主張する昭和四一年八月一五日当時の被控訴人会社の社員が誰であつたかを判断する。控訴人は、被控訴人会社の設立時から昭和二〇年五月一六日までは被控訴人禎子と訴外亡大谷四郎が、同日から昭和四一年八月一五日までは被控訴人禎子、同好秀がそれぞれ社員とされているが、これは善三郎が同人らの名義を冒用ないし借用したにすぎず、設立時から昭和四一年八月一五日までの被控訴人会社の真正の社員は善三郎のみであつた旨主張するが、この点に関する<人証>は措信できないし、他にこれを認めうる証拠はない。当裁判所は、被控訴人会社の設立時から昭和二〇年五月一六日までの社員は善三郎、被控訴人禎子及び訴外亡大谷四郎であり、同日以降の社員は善三郎と被控訴人好秀、同禎子の三名であつたと判断するが、この点の事実認定は原審の認定と同一であるから、原判決七枚目裏一四行目冒頭から同一〇枚目末尾までの記載を引用する(ただし、同一〇枚目表八行目冒頭の「なされ、」の次に「同年同月一六日、」を挿入する。)。
2 控訴人は、被控訴人好秀、同禎子が被控訴人会社の社員であつたとしても、(イ)善三郎は右被控訴人両名から控訴人の入社につき同意を得ていたものであり、(ロ)右被控訴人らは善三郎に対し、被控訴人会社に関するすべての事項につき包括的代理権を与えていた旨主張し、被控訴人会社は、民訴法一三九条により却下すべきであると主張する。
記録によれば、控訴人は原審において右と同旨の主張をしたが(昭和五一年三月一〇日付準備書面第一四項)、その後右主張を撤回し(同年六月二三日付準備書面第一項)、更に原審第二六回口頭弁論期日(昭和五一年一〇月一三日)において、控訴人の主張は、被控訴人好秀、同禎子は当初から被控訴人会社の社員ではなく、被控訴人会社は昭和四一年八月一五日控訴人の入社によつてはじめて会社として成立したとの主張につきる旨釈明したこと、そこでその後の証拠調は右主張を争点として実施されたものであるが、昭和五五年三月一一日の当審第四回口頭弁論期日に至り、再び右主張をしたものであることを認めうる。右認定の訴訟の経緯に照らすと、控訴人の右主張は重大な過失によつて時機に後れて提出されたものであるが、控訴人はこのためにあらたな証拠調を求めるものではなく、しかも、右主張が提出された当時、当審においてはなお証拠調を要する段階にあり、右主張によつて訴訟の完結を遅延させることにはならないから、右主張を却下すべきではない。
そこで、右主張について判断するに、<証拠排斥略>。
3 控訴人は、被控訴人好秀、同禎子は昭和四五年一一月二四日、控訴人が被控訴人会社の社員であることを事後的に承諾した旨主張し、被控訴人会社は、民訴法一三九条により却下すべきであると主張する。
記録によれば、控訴人は昭和五五年六月五日の当審第六回口頭弁論期日に至りはじめて右主張をしたものであることが認められ、控訴人の右主張は重大な過失によつて時機に後れて提出されたものであるが、前記2の主張の場合と同様、右主張によつて訴訟の完結を遅延させることにはならないから、右主張を却下すべきではない。
そこで、右主張について判断するに、右主張を認めうる証拠はない。
4 よつて、控訴人の入社につき総社員の同意を認めえないから、控訴人のその余の主張(清算手続中の合名会社に入社の可否、会社継続の黙示の合意の有無等)につき判断するまでもなく、控訴人が被控訴人会社の社員であることの確認を求める請求は理由がない。
四本件抹消登記の回復登記請求及び本件印鑑の引渡請求について
右三4の認定により、控訴人が被控訴人会社の社員であることを前提とする右各請求は、理由がない。
五被控訴人好秀、同禎子が被控訴人会社の社員でないことの確認請求について
右三1の認定に反する控訴人の右請求は理由がない。
六よつて、原判決は相当であつて、控訴人の本件訴訟は理由がないからこれを棄却し、また、控訴人の当審新請求は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(小西勝 大須賀欣一 吉岡浩)